「銀色の舞踏靴」(横溝正史)

捕物帳でのネタを、翌年本作品に転用

「銀色の舞踏靴」(横溝正史)
(「血蝙蝠」)角川文庫

映画を観ていた俊介の
頭上に落ちてきた
片方だけの銀色の舞踏靴。
だが、それを落としたと
思われる女は、
俊介の制止を振り切り、
タクシーに乗り込み
立ち去っていった。
好奇心に駆られた俊介は、
もう一台のタクシーで
後を追う…。

横溝正史
ご存じ由利・三津木シリーズの短篇です。
「舞踏靴」とは何やら
古めかしい言い方ですが、
昭和14年発表ですから当然です。
本作品も味わいどころが豊富です。

本作品の味わいどころ①
定番・三津木俊介のワトソン役

このシリーズ、
三津木俊介が単独で登場するときは
それなりに活躍をするのですが、
コンビで登場すると、
なぜかミスばかりしています。
今回も追跡した女性にはコケにされる、
そして映画館ではその間
殺人が起きている。
さらには銀色の舞踏靴の出所を
調べに行った靴屋では
泥棒と間違えられる。
完全に引き立て役でしかありません。
でも、それがこのシリーズでの
俊介の役割なのです。

本作品の味わいどころ②
殺人に巻き込まれるシンデレラ

片方の舞踏靴を落として
逃げ去ったのですから
まさしくシンデレラです。
でも、映画館で殺されていた女性も
同じ舞踏靴を履いていたのです。
それらは見知らぬ人物から贈られた
舞踏靴でした。
さらには舞踏靴を贈られた女性は
もう一人いて、
その女性もすでに死亡していた…。
シンデレラは否応なく
殺人事件に巻き込まれるのです。

本作品の味わいどころ③
次々と殺される三人の美女

横溝作品には、美女が次々に
殺されるものが多いのですが、
本作品で殺されていく
舞踏靴を贈られた女性たちも
もちろん美女なのです。
それも婦人雑誌の美人投票で
堂々ベスト3に選ばれた3人です。

さて、この美人投票ベスト3が
次々に殺されるという設定、
そしてその殺人の動機、
実は横溝作品では
人形佐七のデビュー作「羽子板娘」でも
使用されています。
こちらは昭和13年発表。
捕物帳でのネタを、なんと次の年に
現代物の由利・三津木シリーズで
横溝は転用していたのです。

横溝は多作でしたので、
トリックやシチュエーションを
使い回ししている例は他にもあります。
それを見つけるのも
横溝作品を読む楽しさです。

それはともかく、
この由利・三津木シリーズ、
今年(2020年)の夏、
「探偵・由利麟太郎」としてめでたく
テレビドラマ化となるようです
(本作品は「殺しのピンヒール」という
エピソード名で6月30日放送予定)。
なんでも主演の由利役は
吉川晃司だとか。楽しみです。
今後、由利・三津木ものの人気が
一層高まることを期待しています。

そのテレビ化のおかげで、角川文庫から
3月には「蝶々殺人事件」
4月は「憑かれた女」
そして今月22日には本書「血蝙蝠」
復刊します。
角川文庫の横溝作品が、
杉本画伯表紙画で復刊するのは
何よりも喜ばしいことです。

(2020.5.3)

Pam SimonによるPixabayからの画像

※由利・三津木シリーズはいかがですか。

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